特定外来生物を指定する社会的な意義

人と自然に関わる必要性結城永人の『人と自然の関わり合い』

人と自然の関わり合い by 結城永人

特定外来生物の指定は通常の外来生物（侵略的外来種）の中から、規制・防除の対象とするものを学者などの意見に基づき、主務大臣である環境大臣によって行われ、政令（特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律施行令）に定められます。特定外来生物は生存しているものに限られますが、個体だけではなく、卵、種子、器官なども含まれます。特定外来生物を指定する社会的な意義は人と自然に関わる必要性から理解することができます。生態系の保全特定外来生物は在来種との競合や捕食、病原体の媒介などにより、生態系を撹乱し、在来種の減少や絶滅を引き起こすおそれがあります。在来種の減少や絶滅の恐れ具体的に特定外来生物は在来種の生息地や餌場を奪い、在来種の個体数を減少させる可能性があります。また、在来種を捕食したり、病原体を媒介したりすることで、在来種を絶滅に追い込む可能性があります。アライグマの例アライグマは日本に定着した特定外来生物の代表例です。アライグマは在来種の鳥類や魚類を捕食し、生態系に大きな影響を与えています。また、狂犬病などの病原体を媒介する恐れもあります。人の生命・身体の保護特定外来生物の中には毒を持つものやアレルギー反応を引き起こすものなど、人の生命・身体に被害を及ぼすおそれがあるものもあります。健康被害の危険性具体的には特定外来生物は人を刺したり、噛んだりすることで、健康被害を引き起こす可能性があります。また、アレルギー反応を引き起こすものもあります。セアカゴケグモの例セアカゴケグモは日本に定着した特定外来生物の代表例です。セアカゴケグモは毒を持つもので、刺されると重篤な症状を引き起こす可能性があります。農林水産業の健全な発展特定外来生物の中には農作物や家畜を食害するものや、野生種の生息地の森林や海洋などに被害を及ぼすものなど、農林水産業に被害を及ぼすおそれがあるものもあります。家畜や野生種への悪影響具体的には特定外来生物は農作物や家畜を食い尽くしたり、野生種の生息地の森林や海洋などを荒廃させたりすることで、農林水産業に大きな被害を与える可能性があります。オオクチバスの例オオクチバス／ブラックバスは日本に定着した特定外来生物の代表例です。オオクチバスは在来種の魚類を捕食し、漁業に大きな被害を与えています。法律上で講じられる対策特定外来生物の指定により、特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律を通じて以下の対策が社会的に講じられます。

輸入の規制

特定外来生物の輸入は原則禁止されます。

飼育・栽培の規制

特定外来生物の飼育・栽培は許可制となります。

放出・遺棄の禁止

特定外来生物の放出・遺棄は禁止されます。

捕獲・駆除の実施

特定外来生物の捕獲・駆除が実施されます。

特定外来生物の指定は日本において外来種問題への対策を講じるための重要な制度です。特定外来生物の指定により、生態系の保全、人の生命・身体の保護、農林水産業の健全な発展を図り、国民生活の安定向上に資することが期待されています。なお、特定外来生物は定期的に評価が行われ、被害の程度や対策の状況によっては指定が解除されることもあります。外来種問題の解決に向けて特定外来生物の指定は外来種問題への対策を講じるうえで、重要な制度ですが、完全に問題を解決することはできません。特定外来生物が定着してしまった場合、駆除や対策にも限界があります。そのため、特定外来生物の指定と併せて外来種の持ち込みや放出を防止するための啓発や教育も重要です。また、特定外来生物の指定は外来種問題の解決に資する一方で、経済や文化への影響など、社会的な課題も生じています。特定外来生物の指定と対策を実施する際にはこれらの課題にも配慮する必要があります。