川端康成の自殺の原因について

前書き川端康成の死は謎がありますが、自殺と考えられることが多いです。その原因として三つの可能性を取り上げます。どれが本当かどうか、また、一つだけが真実とはかぎらず、二つ以上が影響したかも知れません。現実に何があったのかを探ります。川端康成が自殺した三つの可能性川端康成が書斎の机に着いて顔を上げている

川端康成 by Unknown / Public domain

ノーベル文学賞受賞後の創作活動の停滞川端康成は1968年に日本人初のノーベル文学賞を受賞しました。しかし受賞後の創作活動は停滞し、長編作品に関しては1964年から書き始められていた『たんぽぽ』が最後となり、未完の絶筆として残された。川端はノーベル賞受賞後、世界的な注目を浴び、日本を代表する文学者として活躍しました。しかし、その一方で、受賞後の創作活動のプレッシャーや葛藤に苦しんでいたと言われています。川端はノーベル賞受賞の対象作となった『雪国』や『千羽鶴』や『古都』などに匹敵する優れた作品を受賞後に新たに発表することが困難であることに苦悩していたようです。また、川端は、ノーベル賞受賞後、日本国内外から多くの取材や講演の依頼を受けるようになりました。その結果、創作活動に集中することができず、ストレスを抱えるようになっていました。これらの要因が複雑に絡み合いって川端康成の創作活動は停滞し、自殺の原因の一つになったと考えられます。密かに恋慕していた家事手伝い女性の辞職川端康成は1970年から家事手伝い兼運転手として雇っていた鹿沢縫子（仮名）を密かに恋慕していました。鹿沢は川端の創作活動を支え、彼の心の支えとなっていました。しかし約一年後に鹿沢が長野県の実家に戻ることを決意し、川端は彼女の辞職を強く嘆き、その悲しみが自殺の原因の一つになったと考えられています。この説は臼井吉見の小説『事故のてんまつ』に由来しますが、川端康成の遺族は故人と妻の名誉毀損で提訴し、和解の条件によって作品は絶版とされました。一部の専門家からも事実誤認や不適切な表現が指摘されており、中でも鹿沢や過去の恋人が被差別部落出身者という虚構に対しては部落解放同盟から差別を助長することを糾弾されました。こうしたことから『事故のてんまつ』の自殺に関する信憑性には疑問が残ります。ただ、鹿沢本人は養父に川端康成の原因は自分にあると話したことがあるようで、人知れない繋がりが二人の間に全くなかったとも言い切れません。長らく服用して来た睡眠薬による依存症川端康成は創作活動のプレッシャーや不安から睡眠薬を常用していました。1972年4月16日の自殺当日も睡眠薬を服用していたとされています。睡眠薬の依存症が自殺の引き金になった可能性も考えられます。睡眠薬の過剰摂取によって自殺願望が強まったり、自殺行動を起こしやすくなったりした可能性があります。1970年には共にノーベル文学賞の候補とされた旧知の仲の三島由紀夫の死（三島事件による割腹自殺）もありました。川端康成は非常に大きなショックを受けたようです。葬儀委員長を務めましたが、少なくとも1ヶ月ほどは心身の疲労で床につくことが多かったと伝えられています。その他の要因も含めて不安や憔悴から以前にも況して睡眠薬に依存せざるを得ない状況があったことは否定できず、本人は意図しないままに自殺することになってしまったかも知れません。なお、川端の遺族は動機も遺書もないことから自殺を認めず、事故説を主張しています。しかし、警察の捜査の結果、自殺の可能性が高いと判断されました。後書き川端康成の自殺の原因についてはさまざまな憶測や議論がなされてきました。しかしその真相は川端本人しか知る由もありません。川端康成は自殺の直前に自身の作品に登場する主人公のような「美しい死」を望んでいたと言われています。彼は自身の作品を通して、美しい死への憧れを表現してきました。川端康成の自殺は、日本文学史上、大きな衝撃を与えた出来事でした。彼の死は今なお多くの人々に謎と悲しみを与え続けています。